山林の越境木は勝手に切れる?2023年民法改正の3要件と対応手順

山林の越境枝を切れる3要件を示す図

隣の山林から枝が越境していても、2023年の民法改正後に無条件で切れるようになったわけではありません。原則は竹木の所有者に切除してもらい、法律上の3要件のいずれかを満たす場合に、自分で枝を切り取れる可能性があります。

最初にすることは伐採ではなく、境界と越境状況の確認です。境界標や図面を見て、枝の付け根、越境範囲、建物・道路との距離を写真に残し、竹木の所有者と連絡先を調べます。

折れた枝が今にも落ちそうな場合は人を近づけず、高木・急斜面・電線付近では自分で作業しないでください。法律上切れる場面と、安全に切れる現場は別です。境界や要件に迷うなら法律・境界の専門家へ、作業方法は伐採業者へ確認します。

山林の越境枝を自分で切れるのは3要件のいずれかを満たすとき

改正民法233条は、越境された土地の所有者が枝を切り取れる場面を3つ定めています。3つすべてではなく、次のいずれか1つに該当することが、自分で枝を切る前に確認する条件です。

  1. 竹木の所有者へ枝の切除を催告したものの、相当な期間内に切除されないとき
  2. 竹木の所有者を知ることができない、または所有者の所在を知ることができないとき
  3. 枝の落下が目前に迫るなど、急迫の事情があるとき
越境枝を切れる3要件と要件未充足の判断図
3要件のいずれにも当てはまらない段階では、自分で切らず確認を続けます。

通常は1つ目の「催告後も切除されない場合」に沿って進めると、経緯を相手へ説明しやすくなります。一方、2つ目と3つ目は、1つ目のような事前の催告までは求められていません。ただし、該当する事実と調査・記録は残しておきます。

  • 枝が境界を越えているだけで、3要件を確認せずに切り始めない
  • 急迫の事情を、落ち葉・日陰・将来の倒木不安だけで決めつけない

2023年民法改正で変わった点|枝・根・共有木の違い

2023年4月1日の施行後も、枝は竹木の所有者に切除してもらうのが原則です。変わったのは、原則だけでは解決できない3つの場面で、自分で枝を切れるようになった点です。

対象改正前改正後
越境した枝所有者への請求が原則3要件のいずれかで自分で切れる
越境した根自分で切取り可能変更なし
共有の竹木全員同意が壁になり得た各共有者が枝を切取り可能

竹木が共有の場合、改正後は各共有者が越境枝を切り取れます。共有者の1人から承諾を得て、越境された土地の所有者が枝を切る方法も検討できます。共有者以外の相続人や権利関係が複雑なら、承諾者の権限を先に確かめましょう。

根は条文上、自分の土地へ越境した部分を切り取れます。ただし、根元側の隣地へ入ったり、必要な範囲を超えて樹木を傷めたりしてよいという意味ではありません。境界と切る範囲を先に特定する必要があります。

越境木を切る前に確認する6ステップ

判断点を先に確認します。山林では、見た目だけで境界や所有者を判断すると行き違いが起こりやすくなります。伐採を手配する前に、次の順番で事実と連絡経緯をそろえましょう。

STEP.1 境界と枝の位置を確認する

公図・測量図・境界標・過去の立会記録を見比べます。境界が確定できない段階で、枝の越境範囲も断定しないことが大切です。

STEP.2 現況を写真とメモで残す

全景、境界標との位置関係、枝の付け根、傷み、建物・道路・電線との距離を撮影します。撮影日と場所も記録します。

STEP.3 竹木の所有者と所在を調べる

登記事項証明書を起点に確認します。山林では、市町村の林務担当や森林組合に、所有者情報を確認できる窓口・資料を聞ける場合もあります。相続人調査が必要なら専門家へ引き継ぎます。

STEP.4 書面で切除を求める

対象の枝、場所、写真、希望する対応、期限、連絡先を記載します。送付文書の写しと配達記録を保管し、口頭連絡だけで終わらせません。

STEP.5 期間経過と3要件を確認する

法務省資料では相当期間を基本的に2週間程度としていますが、現場ごとの作業準備を考慮します。所有者等不明や急迫時は、その根拠を整理します。

STEP.6 範囲と安全な作業方法を決める

可能なら切除範囲、枝の処分、費用、立入り日時を書面で共有します。業者には樹高、傾斜、搬入路、周辺物、境界資料を見せて現地見積もりを依頼します。

越境木の境界確認から安全作業までの確認フロー
境界と所有者を確かめ、記録・催告を経て安全な作業方法を決めます。

費用だけで業者を選ばず、切る範囲、使用機械、枝の搬出・処分、隣地使用、追加費用の条件を同じ前提で比べます。見積書と作業前後の写真を残すと、必要な範囲の作業だったことを説明しやすくなります。

山林の越境木で判断を誤りやすい3つの場面

境界が曖昧なら越境の前提を確かめる

森林では古い杭が動いていたり、尾根・沢などの目印と公的な境界が一致しなかったりします。固定資産税の課税図や森林簿だけで所有権の境界を確定できるとは限りません。

既存の地積測量図、境界確認書、地籍調査成果を確認し、それでも不明なら土地家屋調査士へ相談します。境界が決まる前に切り始めないことが大切です。境界が曖昧なままでは、越境した範囲だけを切るという作業指示も作れません。

所有者・所在不明は調査記録を残す

登記名義人が亡くなっている、住所が古い、相続人が複数いるという山林は珍しくありません。ただ連絡先を知らないだけで、直ちに「所有者を知ることができない」と判断するのは避けます。

いつ、どの資料を調べ、どこへ照会し、郵便がどう戻ったかを記録します。相続人や住所の調査が必要な場合は、司法書士や弁護士へ資料を見せて、次に必要な確認を聞きます。

急迫の事情は単なる将来不安と分ける

急迫の事情は、対応を待てない切迫した状況を想定した要件です。折損した枝が建物や通路の上にぶら下がっている場合などは候補になりますが、一般的な落ち葉や日照の悩みと同じには扱えません。

危険が迫るときは、まず立入りを止めて警察・消防・道路管理者・電力会社など関係先へ連絡する場面もあります。安全を確保したうえで、写真、時刻、天候、枝の状態、連絡記録を残します。

自分で切らず専門家に任せるべきケース

民法上の要件を満たしていても、伐採の技能や安全設備が備わるわけではありません。次の条件では個人でチェーンソーや高枝切りを使わないでください。

  • 枝が頭上、建物、道路、電線、通信線の近くにある
  • 高木、急傾斜、足場不良、かかり木、腐朽・空洞がある
  • 伐った枝の落下方向や退避場所を確保できない
  • 境界、竹木の所有者、切除要件のいずれかが未確認
  • 隣地へ入る必要があるのに、通知や使用範囲を整理していない

伐採業者へは「越境部分だけを切りたい」と伝え、樹木全体への影響も見てもらいます。電線付近は自分で近づかず、先に電力会社・通信事業者へ連絡し、必要な安全措置と作業区分を確認します。

越境木の対応先を目的別に分ける

「専門家へ相談」と一括りにすると、問い合わせ先がずれて時間がかかります。まず、何を確かめたいかを決め、手元の資料と一緒に伝えましょう。

確認したいこと主な相談先用意するもの
3要件・催告・費用争い弁護士写真、通知、経緯
登記・相続人の確認司法書士登記事項、戸籍情報
境界の調査・測量土地家屋調査士公図、測量図、杭
切除方法・安全・見積もり伐採・樹木管理業者現地写真、搬入路

市町村の林務・空き家・市民相談窓口では、利用できる資料や地域の相談先を案内してもらえる場合があります。ただし、私人間の法的判断や枝の切除を自治体が代行するとは限りません。相談時は何を確認できる窓口かを聞きましょう。

山林の越境木で迷いやすい質問

催告後は必ず2週間待てばよい?

判断点を先に確認します。2週間は一律の固定期限ではありません。法務省資料では基本的な目安とされていますが、高木の現地確認、業者手配、天候、安全対策など、枝を切るために必要な時間は事案で変わります。期限設定に迷うなら書面を専門家へ見せます。

切除費用は竹木所有者へ請求できる?

法務省資料では、基本的に竹木所有者へ請求できると考えられています。ただし、必要だった作業範囲、金額の相当性、実際の支払いで争う可能性は残ります。可能なら作業前に見積書と負担方法を共有してください。

枝を切るため隣地へ入ってよい?

民法209条により、必要な範囲で隣地を使用できる場面があります。原則として、目的、日時、場所、方法を事前に通知します。通知が難しい例外はありますが、無断で自由に立ち入れる規定ではありません。

まとめ|越境木は記録と3要件を確認してから安全に切除する

2023年の民法改正は、越境枝を自由に切る許可ではありません。竹木所有者に切除してもらう原則を残しつつ、催告後不履行、所有者等不明、急迫の事情という3つの場面で、自分で枝を切れるようにしたものです。

山林では、枝より先に境界・所有者・作業環境を確かめます。現況写真、境界資料、所有者調査、通知と配達の記録、見積書を一つにまとめれば、法律・境界・作業の各専門家へ同じ事実を伝えられます。

要件が曖昧なら弁護士等へ確認し、高木や斜面の作業は伐採業者へ任せましょう。切れるかの判断と、安全に切る準備を分けることが、越境木トラブルを広げない第一歩です。